目には目を、歯には歯を
発端
女性一人が、ただ行方不明になっただけで、何故そんなに大騒ぎしているのだろう…?

いまだに、この国の感覚が判らないジャックは、仕事中に同僚のアルファに話を聞いてみることにした。

「ここのところ、毎日ニュースでやってる事件、あるだろう? この先の街の方で女性が行方不明って…」

さりげなく、そう話題をふる。

「あぁ、あれかぁ。早いとこ帰ってくりゃぁいいのになぁ」

アルファは、何でもないことの様に言う。
行方不明者を心配してる様子はない。
むしろ、自分から姿をくらましているかのような口調だ。

「帰って…って、帰れないから行方不明なんだろう?」

ジャックは首をかしげる。

「何かの事件に巻き込まれた、とかさ」
「事件って?」
「さぁ…。例えば監禁されてたり、既に殺されていたり、とか」

ジャックが言い終わる前に、アルファは腹を抱えて笑い出した。
おかしくておかしくて仕方がない、といったように。

「…何が可笑しいんだ?」

ジャックは、だんだん腹が立ってきた。
口調にも少しトゲがある。

それを感じ取ったのか、ようやくアルファは笑うのをやめた。

「…そっか。お前、この国の者じゃなかったんだっけ。他の町から流れて来たのかと思ってたぜ」

そっかそっか、とアルファは呟く。

「この国に産まれ育った者なら、そんな発想しないもんなぁ。…殺す、だって?」

自分で言っておいて、また笑い出す。

ジャックには何が可笑しいのか、皆目見当がつかない。

行方不明、となれば、当然殺人事件の可能性だって考えるだろうに。

「この国の者なら、殺人なんて絶対しないね」

アルファは自信満々に言い切った。
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