妖の王子さま
蒼子は、急いで家に帰る。
雨に降られついたころにはすっかりびっしょりと濡れてしまっていた。
濡れた身体をタオルで拭き、服を着替える。
お風呂は後からにしようとキッチンに向かった。
両親は、早くに二人とも事故で亡くし高校に入ってからは一人暮らしをしている。
親戚がいろいろと世話を焼いてくれるが、できることは自分でしたいと一人暮らしを始めた。
親が残してくれたお金で何とか高校時代はやっていけそうだ。
高校を卒業してからは就職し、自分の力で生きていくと決めていた。
「よし」
静かな部屋は、余計なことをあれこれと考え込んでしまう。
それを払拭するように声を出し、冷蔵庫から食材を取り出した。
ふと、伸ばした手を見る。
右腕に巻かれた手ぬぐい。
冷蔵庫を閉め、そっとその手拭いを外してみる。
傷跡はすっかり消えていた。