妖の王子さま
白玖は、蒼子をただ見つめていた。
多々良がいなくなってからも、ただ一心に。
なぜこんなにも胸が騒ぐ。
蒼子が傷ついて眠っている様を見て、どうして心が痛むのだ。
その理由がわからず、余計に苛立ちに似た感情が生まれる。
こんな風に胸が騒ぐことなど初めてだった。
なにかに心捕らわれ、動かされることなど。
そんなものは自分には必要なかったし、そんなものが自分に備わっているとは思っていなかった。
自分の中にあるのは、ただひたすら戦う事。
そして、必ず勝利を手にすること。
そのために、命を落とすことになっても。
この身は、そのためにあるのだから。
「ん・・・・」
蒼子が顔をしかめ唸りをあげた。
白玖は身を乗り出し、蒼子の顔を覗き見る。