妖の王子さま



白玖は、蒼子をただ見つめていた。
多々良がいなくなってからも、ただ一心に。



なぜこんなにも胸が騒ぐ。



蒼子が傷ついて眠っている様を見て、どうして心が痛むのだ。



その理由がわからず、余計に苛立ちに似た感情が生まれる。
こんな風に胸が騒ぐことなど初めてだった。


なにかに心捕らわれ、動かされることなど。



そんなものは自分には必要なかったし、そんなものが自分に備わっているとは思っていなかった。




自分の中にあるのは、ただひたすら戦う事。
そして、必ず勝利を手にすること。



そのために、命を落とすことになっても。





この身は、そのためにあるのだから。





「ん・・・・」




蒼子が顔をしかめ唸りをあげた。
白玖は身を乗り出し、蒼子の顔を覗き見る。




< 109 / 381 >

この作品をシェア

pagetop