妖の王子さま
「毎年、ご苦労だねぇ」
寺の住職が穏やかな表情を浮かべ蒼子に声をかけた。
毎年この日にやってくる蒼子とは顔見知りだ。
「こんにちは」
「元気にしていたかい?」
「はい。住職さんもお元気そうでよかったです」
「いろいろと、ガタは来ているけどね」
住職は、物腰が柔らかく穏やかで優しく、蒼子は好きだった。
まるでお父さんのように包み込んでくれる。
そんな住職を、慕っていたのだ。
「そうだ、蒼子ちゃん。帰りは気を付けるんだよ」
「はい・・・?」
「山を下りる途中で道が分かれている場所があるだろう?」
「ああ、下に降りる道ともう一つ道がある」
「そう。決して違う道に行ってはいけない」
住職は、真剣な声でそう言った。
蒼子は言い様のない恐怖にごくりとつばをのむ。