妖の王子さま
「なにが、あるんですか・・・?」
「そっちにはね、湖があるんだけど。最近悪いうわさがあるんだよ」
「悪いうわさ?」
「そう。なんでも、その湖に近寄った人間は、神隠しにあったように消えてしまう・・・と」
ゾクリと背筋が凍った。
そんな場所があったなんてと恐ろしく思う。
そして、絶対に行くもんかと固く誓った。
「お茶でも飲んでいくかい?」
「いえ、急ぐので。ありがとうございます」
「そうか。じゃあ、気を付けておかえり。またいつでもおいで」
「はい。ありがとうございます」
本当はもう少しだけこの世界と繋がっていたかった。
後ろ髪をひかれながらもその寺を後にした。
空が赤く染め上げられていく。
夜はもうすぐそこまで来ていた。
少し長居し過ぎてしまったと、後悔した。
夜になると山道は怖い。
足早に降りていく。
そして、住職が言っていたあの分かれ道に差し掛かった。