妖の王子さま
「蒼子!」
静けさの漂う湖に大きな声が響いた。
蒼子はその声にハッとする。
女はその瞬間、蒼子に回していた手を引っ込める。
「白玖?」
「蒼子、夜までには帰ってくるって言ってたのに、こんなところでなにしてるの」
「あ、ご、ごめん。帰るつもりだったんだけど・・・、この女の人が困ってて・・・」
事情を説明するが、白玖は怒っているのか表情をむすっとさせるまま。
ふだん着ている着流しのまま、耳もそのままにそこに立っている白玖。
「白玖、その、せめて耳を隠した方が・・・」
なんて余計な心配だろうかと思う。
「そんな事より、蒼子。帰るよ」
「う、うん。でも、この人・・・」
「それは、人じゃない。湖を見てごらん」
白玖に言われ、湖を覗き込む。
湖に移る女の姿は、牛のような顔と体に、人間の着物を着ている人間の倍以上あるような大きな図体をした妖怪。