妖の王子さま



「いずなさま!大変です!狐どもが!」





バタバタと慌ただしくやってきた天狗。
その言葉に、いずなは眉を顰め蒼子の顎から手を放した。




「ふ、あの狐が奪い返しに来るとはな」




おかしそうに唇の端をあげながら立ち上がる。
蒼子はその様子を視線で追いながら不安に胸を揺らしていた。




「待っていろ、女」

「え・・・」

「その涙の理由を、聞かねばな」




意地悪にそう笑うと、いずなは外へと飛び出していった。
残された蒼子は戸惑いながら、いずなの後を追う。
じっとしていられなかった。


白玖が来たということは、戦いになる。
きっと、またケガをする。




怪我をするのは、それが誰でも嫌だった。
心が騒ぎ、手を伸ばしてしまう。


いずなにああ言われても、きっと助けずにはいられない。
蒼子は、それがわかっていた。





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