妖の王子さま
「白玖・・・?」
思わず呼びかけた声に、眉一つ動かさない白玖は静かな動作で蒼子に近づく。
その様子を、側にいた多々良たちは戸惑いながらも見つめていた。
「・・・来い」
白玖は蒼子の腕を掴むと強引に引き起こした。
戸惑いながら立ち上がった蒼子の手を引き、白玖は部屋の隅に置いていた蒼子の持ってきた荷物を掴むとそのまま部屋の外へと向かった。
「白玖さま!?」
突然の行動に多々良たちも驚き、慌てて後を追う。
多々良の声にも立ち止まることもなく、白玖は草履をはくと屋敷の外に出た。
蒼子の穿いてきた靴は手荷物の中に入っていて、履く物がないため蒼子は裸足のまま連れ出されていた。
「待って・・・白玖、どこに行くの!?」
混乱する心を抑えながら、必死に前を行く白玖に声をかけるが振り向くことはない。
白玖は歩く速度を落とすことなく進んでいくと、たどり着いたのは初めて白玖たちと出会ったあの丘だった。
「ここ・・・」
それに気づいた蒼子は戸惑いながらも辺りを見渡す。
後からついてきた多々良も、たどり着いた場所に戸惑いを隠せなかった。