妖の王子さま
「戦いはいったん終わったんだ。白玖も屋敷に戻っている頃だと思う」
丘にあがっていく途中、現在の様子を牛鬼に聞いていた蒼子。
白玖は、酷いケガを負い意識なく家来たちに抱えられながら戻っているという。
そのことを聞き、不安に胸が痛み、歩む足が次第に速くなっていく。
「本当に・・・いいのか?もしかしなくても、白玖は蒼子さまにきつくあたるかもしれない。蒼子が知っている白玖では、ないかも」
「大丈夫。なにを言われても平気。私が初めて会った時の白玖も心を持たない冷たい表情をしていたから」
「そっか・・・」
牛鬼は蒼子の決意を聞くとそれ以上なにも言わず蒼子に合わせ歩く速度を速めた。
妖の世界への道が開くと牛鬼について蒼子はそこに足を踏み入れる。
再び、今度は自らの意思で妖の世界に向かうんだと、蒼子は固く意思を持ちながら足を進めた。
久しぶりにやってきた妖の世界。
白玖の住む屋敷。
とても、懐かしく思えた。
「蒼子さま、こっち」
懐かしむ蒼子に牛鬼が声をかける。
蒼子は牛鬼に従い後を追った。