妖の王子さま
「すみません、出過ぎた真似を」
「え、あ・・・。ううん。ありがとう・・・」
落ち着きはしたが、無意識のうちに力を使っていたことに蒼子は戸惑っていた。
そんな事、今まで一度もなかったからだ。
そして、その時一瞬頭によぎった映像がなんなのか思い出せない。
不安になった蒼子だったが、今はそんな事よりも白玖の方が優先だとその想いを消し去った。
「白玖は・・・、大丈夫なんだよね?」
「命はおそらく・・・。しかし、いつ目を覚ますかわからない状況です」
「どうして、いつも白玖がこんなに傷つかなくちゃいけないんだろう・・・。妖の世界で一番になるために戦って、今度はこんな罰まで受けて・・・」
妖の世界の事はわからない。
口出しをするべきでもない。
そんなことはわかっていた。
それでも、言わずにはいられない。
こんな傷だらけの白玖を見てしまったら。
「心を失くして戦うことを、お母さんが望むなんて」
「そもそも、妖は親子関係が希薄なんです。そもそも人間のように生まれてくるものばかりではありませんしね」
「・・・そっか」
「親なんて者がいる妖の方が少ないのです」
多々良の説明に蒼子はそっか、と頷いた。
知らないことばかりだ。
自分の当り前が、ここではそうではないのだと気付かされる。