妖の王子さま
多々良の後を追い、志多良と共に階段を上がる。
でてきたのは、お屋敷のような大きな建物。
由緒正しき日本家屋のような佇まいと、辺りを纏うただならぬ雰囲気にのまれそうになる。
今は夜なのか、辺りは暗く、ぽつぽつと灯されている灯りだけの明るさだ。
思わず止めてしまった足を慌てて動かし、多々良の後を追う。
長い廊下を歩き、ある部屋の前に立つと多々良は静かにその襖を開いた。
「白玖さまの容体は」
「今までになく酷くやられておいでです。意識はなく気を失っておられます」
中にいた、狐の顔をしているのに、身体は人間のように二本足で立ち着物を身に纏っている妖怪が目を吊り上げながら答えた。
目の当たりにする光景に、いちいち驚き言葉を詰まらせる蒼子。
いい加減ついていけない。
いったいこれは現実なのだろうか。
夢でも見ているのではないか。
だってこんなこと、あるわけがないのに。
あっていいわけがないのに。
「私が引き継ぐ。お前たちは全員この部屋から出なさい」
「はっ」
多々良の命を受け、狐の顔をした妖怪たちは部屋から出て行った。