妖の王子さま
怒りに我を忘れた白玖は、うめき声をあげながら朱鬼に向かって行く。
今までと比にならないほどの力に、朱鬼は防ぐのが精いっぱいだった。
獣――――
まるで、憎悪にまみれた獣だ。
朱鬼はそう感じた。
我を忘れ、剣を振るう白玖。
鬼気迫る白玖に、朱鬼は無理やり金棒を押し付け蹴り上げる。
「一度、撤退だ!」
引き際を見定めた朱鬼は辺りの鬼たちにそう告げ、さっさと踵を返して引き揚げた。
これ以上は危険、そう判断してのことだった。
「白玖さま!」
去る朱鬼を追おうとしていた白玖を多々良は引き止めた。
いまださっきのこもった妖気を纏う白玖に身が引ける思いだった。