妖の王子さま
蒼子は、勢いよく白玖に抱きついた。
手を首に回し、強く強く抱きしめる。
「白玖っ、それはね、、涙っていうんだよ」
蒼子が泣く姿は見たことがあった。
涙、という概念も知っている。
でも、自分の瞳から溢れることなんて知らなかったのだ。
「白玖、心配、してくれたんだね。ごめんね、ありがとう。大丈夫だよ。私、生きてるよ」
何度も、何度も、宥めるように慰めるようにそう言った。
傷だらけの白玖の身体。
同じように傷だらけの蒼子の身体。
約束は、果たされなかった。
それでも、それ以上に大きなものを得たのだと。
白玖の姿を見た蒼子も、多々良も、そして牛鬼も感じていた。