妖の王子さま
「着物、着たい!せっかくだもんね」
蒼子は、人間の世界でのお祭りを思い起こした。
あまり、お祭りに行ったことのない蒼子だが、一度だけ遠い記憶にある思い出があった。
それは、家族で行った町内のお祭り。
小さなお祭りだったが、父や母と共に行った楽しかった思い出だ。
小さなころの思い出のため、はっきりとした記憶でないが、楽しかったことくらいは覚えていた。
「蒼子、着物着るの?」
「うん。いいかな?」
「うん。・・・ねぇ、すぐにでも着て見せて」
「え?今すぐ?」
「うん。蒼子の着物姿、見たい」
白玖は頭の中で蒼子の着物姿を思い浮かべ、その目で見てみたいという感情を抱いたのだ。
しかし蒼子は首を横に振った。
「だめだよ。お祭りの日まで待って」
「なんで?」
「その日までの、お楽しみ」
「えー」
不服そうに白玖が顔をしかめた。