妖の王子さま



「・・・っ、白玖ッ!」



唇が離れた瞬間に、蒼子が叫ぶ。
瞳に涙を浮かべ、白玖を見上げた。


ハッとした白玖が、蒼子の顔を見る。
瞳が潤み、涙を浮かべる蒼子に、目を見開いた。



「・・・っ、ごめ、ごめん。蒼子」




なにをしたんだ。
俺は、いったいなにを・・・。


白玖は、自分の行動に戸惑い、後ずさるとそのまま走り去ってしまう。



くるもの拒まず受け入れていた白玖。
しかし、自分から求めたことは初めてだった。



自分から触れたいと。
もっと、触れていたいと。



そう思ったのは、初めてだった。



だからこそ、そう思ってしまった自分をひどくはしたないものだと感じた。
涙ぐむ蒼子に、それ程酷いことをしてしまったのだと。



生まれてくる、自分の感情に白玖の心は追いつけていなかった。





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