妖の王子さま
「お前は、狐のところの人間ではないか」
突然、声をかけられ顔をあげた。
その視線の先に立っていた人物に、蒼子は目を見開いた。
「・・・朱鬼っ」
「ほお、我の名を知っているのか」
高圧的な視線。
朱鬼が従者も連れず一人で立っていたのだ。
それも、右腕に大きな傷を負っている。
「・・・その傷」
「ふん、少しばかり、油断していてな」
「どうして・・・。お祭りのときは無礼講だって・・・」
「貴様はバカか?そんなもの、護ってやる義理はないわ」
朱鬼が怪しく笑うのに、蒼子の背筋は凍る。
「敵の数を減らすのには、恰好の時であろう?」
「ひ、卑怯じゃない!」
無礼講だと決められている時を狙うなんて、と蒼子は叫ぶ。
朱鬼は可笑しそうに高笑いを浮かべた。