妖の王子さま
「大きな事故。そこで、この娘の両親が亡くなったようです」
「・・・蒼子の、親?」
「その時の、無念や絶望様々な感情が溢れ、この娘に不思議な力が生まれたんでしょう。しかし、残念なことに、その力は両親を助けることはできなかった。触れなければ傷は移せませんからね。触れられる場所に、両親はいなかったのですよ」
初めて聞かされる蒼子の過去。
両親のことを聞いても、あまり話したがらなかったことを白玖は思い出した。
「傷ついた人を見ると、その時の事が無意識に思いだされ、助けたいとその力をさらに引き出してしまうようですね。助けられなかった過去を思い、目の前の広がる赤にのまれ・・・」
「それで・・・」
傷を移さないという約束で白玖のもとに行ったとき、無意識に傷を移していた蒼子の事を多々良は思い出す。
そういう事だったのかと思えば、納得できた。
「私に見えるのはここまでです」
「・・・ありがとうございました」
多々良が頭を下げる。
白玖は呆然と座り込み、蒼子を見つめる。
胸が詰まり、苦しい。
「蒼子・・・」
悲痛な声が紡ぐ。