妖の王子さま
白玖のためにと、はじめは蒼子のことなど思いやることもしなかった。
それが今、こんなにも、蒼子の身を案じるようになるとは思わなかったのだ。
こんなにも、大切な存在になるとは。
いつしか蒼子は誰の中にも特別な存在になっていた。
「多々良のせいじゃない。それに、多々良がそうしてくれなかったら、おれは蒼子に会えなかった」
「白玖さま・・・」
まさか、白玖の口からそのような台詞がでるとは思えなかった。
多々良は目を丸くする。
そして次の瞬間には笑みを浮かべた。
白玖は変わった。
それは、良き方に。
よく笑い、感情を露わにするようになり。
興味を抱くようになった。
「蒼子さんには、我々は素晴らしいものをもらいましたね」
「蒼子は不思議な人間だね。もう、蒼子なしの未来なんて考えられないんだ」
妖の世に留め置くことになったとしても。