妖の王子さま
「おいで」
いつの間にか開かれていた扉から蒼子を連れ出したその人。
階段を上り、そっと外に出る。
引っ張られるままについていき、屋敷の中の一室に入った後ようやく自分の手を掴んでいた相手を見上げた。
「あ、あなた・・・!」
目の前に立っていたのは、いつも眠っている姿しか見たことのなかった白玖。
きりっと上がった眉に、切れ長の瞳、そして通った鼻筋。
目をあけていても妖艶で美しいという言葉が似合う。
「おれを知ってる?」
「知ってる・・・っていうか。一方的に会った事があるの」
「・・・ふぅん」
さも興味がないように呟く白玖に、自分が聞いたくせにと思う蒼子だったが、それは口に出さなかった。
目の前のこの狐のために自分がどんな目に遭わされているのか。
全ての元凶が目の前にいる。
蒼子の心中は穏やかじゃなかった。