妖の王子さま
「きっ・・・んぐっ!」
叫ぼうとした蒼子の口を白玖の大きな手が塞ぐ。
「叫んだらまた多々良がくるけどいいの?」
そう言われ、顔を青ざめると首を横に振る。
そうしてようやく口から手が離された。
もがいて降りようとする蒼子を白玖は押さえつける。
表情も変わらず、それ程力を込めているようには見えなかったが蒼子が逃れることは叶わなかった。
恥ずかしさに顔を俯かせる。
顔も赤く火照っている。
「・・・蒼子」
「え・・・?」
囁かれた名前。
特に意味はないのかそれ以上なにも言われなかった。
ふと見上げると、白玖の頭の上には人間にはない獣の耳。
あの時の狐が白玖なのなら、狐の耳という事だろうか。
そういえば。
白玖がケガをして横たわっている時にはいつも数本の尻尾もあったはずだ。
そういえば、ここのところ起きている時にその尻尾は見当たらないことに気づいた。