妖の王子さま
蒼子はそっと近づくと、その狐を抱きあげた。
ぐったりしているのか抵抗を見せない狐に少し心配になる。
「狐さん、このケガどうしたの?」
返事などないとわかっているが、子どもをあやすように声をかける。
狐の耳が少しピクピクと震えた。
「待っていてね、ケガ、治してあげるから」
蒼子はそういうとそっとケガをした右手を掴み目を閉じた。
頭の中でイメージを浮かべ、しばらくして目をあける。
「これで、大丈夫」
狐の怪我は跡形もなく消えていた。
その代わり、蒼子の右手に傷口ができ赤い血が流れる。
「白玖(ハク)さまー!」
その時、遠くの方から誰かを探す声が聞こえてくる。
蒼子は顔をあげ、立ち上がり声のする方を見た。