妖の王子さま



蒼子は、何とか一命を取り留め完治するまではと以前の牢で治療していた。
白玖に気づかれないための仕方のない措置だった。

今までにないケガを引き受けたため、いつもより傷の治りが遅い。
傷からくる熱にうかされていた蒼子は、苦しげに息をしていた。




「蒼子・・・、早く元気になれ・・・」




蒼子の看病を任されている志多良が悲しげにつぶやく。
毎回蒼子の看病をしている志多良は、次第に蒼子に情を移しており、傷ついている蒼子の姿を痛々しく思っていた。


我が主のために必要な犠牲なのだと。
そう自分に言い聞かせ、必死に看病を行う。



それでも、早く元気になってほしいと。




「・・・おと・・・さ・・・おか・・・さ・・・・」




熱に浮かされ、蒼子の口から発せられるうわごと。
志多良は唇を噛みしめながら、蒼子の額のタオルを新しいものに変えた。




人間に、情を移してはいけない。




多々良の言葉を、繰り返しながら。





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