妖の王子さま
そう告げるしかなかった。
蒼子の力は隠し通しておきたい。
今、蒼子は動ける状態ではない。
白玖の命令を聞けるはずもなかった。
「おれに刃向うの?」
「っ!いえ、白玖さま!そんなつもりは!」
低く地を這うような声に体を震わせる。
白玖が怒りを表すことは、いつ以来だろうか。
こんなに、感情をあらわにするなんて。
白玖はキレると容赦はない。
冷酷であり、残酷である。
そんなことは、多々良がよく知っていた。
「申し訳ありません!」
頭をこすり付ける勢いで土下座をする。
こうするしかない。
どうすることも、できないのだ。
「白玖さまぁ!」
そんな折、いつかのあの狐がやってきた。