妖の王子さま
「蒼子さん、動けますか?」
「え・・・」
「な、なに言ってんだよ!多々良!蒼子、ようやく熱が下がったところで、まだ動けるような状況じゃ!」
多々良の言葉に反論したのは志多良だった。
ずっと蒼子の看病をしていたのは志多良だ。
蒼子が苦しんでいるのをずっと側で見てきた。
「白玖さまが、蒼子さんがいないことに気づかれました。すぐに連れて来いと、怒りを露わにしているんです」
「怒りを・・・、白玖さまが?」
志多良はその言葉が信じられなかった。
多々良と違い、まだ日の浅い志多良は白玖が怒っている姿なんて見たことがないのだ。
「ですから、一刻も早く白玖さまのもとにお戻りいただきたい」
酷なことを言っていることは百も承知だ。
しかし、この娘を利用すると決めたのだ。
ならば、最後まで残酷であろう。
「・・・はい」
蒼子は、そう告げた。
命令されたから、それだけではなかった。
なぜだか、白玖に会いたいと。
白玖の無事を確かめたかったのかもしれない。