妖の王子さま
「白玖さ・・・、白玖さま!」
現れたのは、背のすらっと高い細身の男。
前髪を横に分け、長い後ろ髪を下の方で一つにまとめた黒髪。
そして、服はなぜか着物を着ている。
下は深緑の袴で、上のあわせは濃藍(こいあい)色。
「あ・・・、この子を探しているんですか?」
「はい。ああ、こんなところにいらしたのですね」
とても大事そうな瞳でその狐を見つめる。
蒼子はそっと狐をその男に渡した。
「ありがとうございます。私、多々良(タタラ)と申します」
「あ、はい。蓮井蒼子です」
「蒼子さま、見つけていただきありがとうございました。ケガを負い、逃げるうちこちらに迷い込んでしまわれたようで」
礼儀正しい多々良という人物の様子に、蒼子もかしこまる。
狐を飼っているのだろうか。
珍しい人もいるものだと感心する。
「白玖さま?けがは、どうされたのですか」
多々良が気づいたように声を上げた。
あったはずの場所に傷跡がない。
驚くのは無理がなかった。