妖の王子さま
蒼子が目を覚ましたのは、かなり時間がたってからだった。
起きてもまだ、白玖の膝の上だったことに驚き慌てた身体を起こした。
今度は蒼子を引き止めることなく白玖は蒼子の様子を視線で追った。
「ごめんなさい・・・。すっかり眠ってしまって」
気恥ずかしさに顔を赤らめ首の後ろに手を置き誤魔化すように髪を掴んだ。
少し眠ったからだろうか、体のだるさや吐き気は少し軽減されていた。
白玖は相変わらず無のままに蒼子を見つめる。
蒼子はそれに落ち着かずソワソワとしてしまう。
白玖の表情がないことはいつものことであるのに。
感情を欠如したような白玖。
それには、慣れてきたと思うのに。
しかし、白玖の視線から、白玖の奥に潜む強い思いを向けられている様で落ち着かなかった。
「人間って・・・、傷を移す力でもあるの?」
「・・・・え?」
白玖から紡がれた言葉に驚き顔をあげた。
そのことは、多々良がひたすらに隠してきたことだ。
白玖は知らないはずだと、蒼子は騒ぎ立てる心の中で思う。
疑い始めているのかもしれない。
それもそうだ。
あれほどの深手があっさりと消えているのだから。