妖の王子さま
「あ・・・、あの、すみません。ケガをしていたので・・・私が、治してしまいました」
「え・・・?」
黙っておくわけにもいかないと蒼子がそう白状する。
多々良は驚いたように顔をあげ、蒼子を見た。
治す、治すと言っても傷跡からないように見える。
そんなことができる人間がいるのかと。
多々良がふと視線を落とすと、蒼子の右腕から血が流れているのを見つけた。
「あなた、そのケガ・・・」
「あ、大丈夫です。その、すぐ治りますから」
「すぐ治るなんて、そんな程度の怪我ではありませんよ!それに、右腕とは、白玖さまがケガをされた場所と同じ」
それは偶然か、それとも。
にわかに信じがたい光景を目の当たりにし、多々良は言葉を失った。
「・・・気持ち悪いですよね。すみません。変なんです。こうやって、ケガを自分の腕に移せたり、それに、怪我の治りも早くて・・・」
「そんなことが・・・」
「本当は、この力使わないようにしているんですけど、この子が少し可哀想で・・・」
多々良の腕の中で気持ちよさそうな表情で眠る白玖と呼ばれたその狐を穏やかな表情で見つめる。