妖の王子さま
それから、蒼子は白玖の部屋に戻っていたが一度も白玖が帰ってくることはなかった。
蒼子の体調は順調に回復し、すっかり良くなっていた。
しかし、その心は晴れることはなくて。
「白玖は・・・・」
「本当なら、回復後すぐにでも奇襲をかけるよう多々良が声をかけたんだけど・・・。そんな気分じゃないって言われて」
「・・・」
「ここ数日はこの屋敷にも戻って来られていないんだ」
屋敷の外には、様々な妖怪が棲んでいる集落がある。
恐らく、白玖はそこにいるのだろうと志多良は続けた。
「たまにあるんだ。しばらく屋敷をあけて、女のところを渡り歩くのは」
「女の・・・?」
「うん。白玖さまはお美しい人だから、女が放っておかない。白玖さまも、来るもの拒まないお方だって、多々良が言ってた」
胸が、ちくりと痛む。
その痛みに気づき、振り払うように顔を振った。
気にすることなんてない。
白玖とはなにもない。
白玖のことなんて、なんとも思っていないのだから。
白玖のせいで自分はここにいて。
白玖は人間じゃなくて妖怪で。
そんな人の事で、傷つくなんておかしい。
そう、自分に言い聞かせるように・・・。