子犬物語。
 ピチョン
 ピチョン、ピチョン―

 耳を打つその音で目覚めた。
 辺りが明るくなっている。空を見上げると、再び冴えるような青が戻っていた。
 叫び続け、寒さに凍えながらも疲れて一眠りしてしまう間に、嵐はとっくに去っていた。

 ―――ピチョン

 生い茂る木々の葉を伝って滴が落ちる。それが地面に出来た水溜りに落ちて小さな音を奏でていた。

「いちご、起きてる?」

 心配になったメロンが、頭をもたげて自分に寄り添ったままの状態で動かないいちごを見る。まだ寝てるのかもしれない、そう思いながら小さく声をかけた。 

「………」

 返事はない。
 自分の体よりも冷たくなっているいちごに、不安を感じた。
 たぶん……まだ眠ってるんだよね?
 胸騒ぎがしていちごの鼻面に耳を寄せる。ちゃんと呼吸をしていた。ごく浅い呼吸だったけれど……。
 きっとぼくより疲れているんだ。しばらくそうっとしておいてあげよう。
 結局ママは来なかった。何も変わらなかった。
 ……きっともう、ママは来ない。会えない。
 メロンの中の鋭い野生の感性が教えた。
 誰の助けもない今、これからはふたりだけで生きていかなくちゃならないんだ。男のぼくがしっかりして、いちごをみてあげなくちゃいけない。
 なにをするにもまずはここから出なくちゃ!
  
 二匹を囲むダンボールは、雨に打たれてふにゃふにゃにふやけていた。メロンはおそるおそる前足を伸ばす。まだ濡れて湿り気を帯びていたダンボールの側面は、軽く触っただけでその場所がへこんだ。

 ここから出られそうな気がする!
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