子犬物語。
 嵐の後、メロンはダンボールの中から外へ出ようとしていた。
 雨により軽く触った部分がへこみ、ここから出られるかもしれないと明るい気持ちになって、今度は力を込めてへこんだ部分を強く押してみた。
 べにゃっと変な音とともにそこが破けた。手を引っ込めると自分の足の形に丸く裂けた部分からは、穏やかな新しい風が入ってきている。戸惑いつつも体をかがめて、自分が作った穴の向こうを覗き込んでみた。
 黒い地面を真ん中に、その両側には大きな建物がいくつも並んでいる。

「うわぁ~」

 見るもの全てが初めて見るものばかりだ!

 好奇心に丸い瞳が輝く。体がうずうずしてじっとしていられない。
 少し……怖くもあるけれど、早く外に出てみたい!
 メロンは早く早くと自分を急きたてる気持ちを抑えつつ、一歩また一歩と踏み出す。先ほど自分であけた小さな穴に近づくとそこに鼻面を押し込む。そのまま首を左右に振りながら前に進むと、一気にズボッと顔が出せた。次に首とダンボールの間に前足を突っ込んでその足に体重をかけた。
 ベリッベリベリベリッ!
 後は面白いぐらいすんなり破け、外へ出るのは簡単だった。
 まずはブルブルッと体を振るわせて辺りを見渡す。

「うっわぁ……!」

 何もかもが大きい。
 ううん、大きいなんてものじゃない。巨大!!
 黒いゴツゴツとした地面はどこまでも続くように長く、色とりどりに並ぶ建物には圧迫感さえ感じる。
 メロンはじっとしていられなかった。

「いちご……いちご! おいでよっ驚く世界が外にはあるよ!」

「………」

 返事はなかった。

「………?」

 なんで返事をしないんだろう。まだ眠いのかな?
 メロンが不思議そうに首を傾げる。
 大丈夫かな……? 
 心配はするものの、まだまだ子供のメロンは自分の好奇心に勝てなかった。

「ちょっと、ちょっとだけ歩いてくるね」

 もう一度声をかけて新しい世界へ一歩足を踏み出した。
 
 外にどんな危険が待っているかも知らず……。
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