子犬物語。
 メロンは嬉しくなって思い切り尻尾を振りながら近づいていく。
 くすんだ色の飢えた眼差し。目の前に立ちはだかる黒い大きな犬は決して友好的とは思えない。しかし、まだ子供のメロンには何が危険で危険じゃないのかわからなかった。

「ぼくメロンっていいますっよろし、く……?」

 鼻面が触れるほど近くに来て、ようやく何かがおかしいことに気付く。
 大きな口からは黄色く太い大きな牙が見え隠れし、そこから涎が滴り落ちている。目つきは氷のように冷たく、その視線は真っ直ぐメロンに向けられていて離れない。その相手が重そうな足取りで一歩近づいた。目を離せないまま、メロンが後ずさる。すると再び大きな犬が一歩近づき、メロンが下がる。

 ―――危険!

 メロンの中の何かが知らせた。

 逃げなくちゃ!

 身をひるがえして駆け出す。
 けれど―。
 反応が少し遅かった。それは地面を蹴り上げ、背を向けて逃れようとしたメロンに飛び掛る。

「きゃん!」

 メロンを襲ったのは激しい痛み。後ろ首を噛まれそのまま地面に押し付けられた。華奢な首に太く大きな牙が刺さる。薄い皮膚を貫き、離さないようにしっかりとくわえ込んだ。
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