桜の一匹狼
プロローグ
満開の桜の下に、その人はいた。
桜の花の下、真っ黒の大きなバイク。
胸元まではだけられた黒いライダースジャケット。
投げ出された長い足。
きれいな顔立ちをしているのに、口元は引き締められ、誰も寄せ付けまいとするようで。
少し腫れた頬。怪我をしているのか口元に血がにじんでいる。
ケンカでもしたのか、だらりと下ろされた手の甲に持ちで汚れていた。
彼は、シートに寄りかかるようにして舞い散る花を見上げている。
鋭い目つきは、どこか寂しそうだ。
満開の桜の下、彼は、まるで世界にひとりぼっちにでもなっているようで。
私には、関わりのないような人。
いつもなら避けてしまうようなその存在に、私の目はくぎ付けにされた。