桜の一匹狼


「は?」


眉をひそめた彼が私を見る。


「怪我、ちゃんときれいにしておいてください……っ」


濡らしたハンドタオルを、無理矢理彼に押しつける。


「……いらねぇよ」

「………っ 使ってください!!」



面倒だと言わんばかりの態度が怖くなって、彼の手の上にハンドタオルを置いた後、そのまま逃げ出した。


「おい、こら……っ」


しらない、しらない、しらない!!


恥ずかしくて、怖くて、でも、もうやっちゃったことはどうしようもなくて。





それは、高校に入学する直前の、忘れてしまいたい、春の日の出来事。





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