あの日とあの場所に
とりあえず斎場から出ようと思い俺は斗真のいる部屋に戻った。あれ里菜もいる。帰ったのでは?あ!荷物を取りに来たのか。

 「斗真、ありがとな。俺帰るわ」

 「お、おうなんだか今井君、呼び捨てにしたり、『くん』付けにしたりおもしろいな」

 あーもう俺バカか?認知能力ゼロなの?どうして高校受かったの?ってなに思ってるんだ俺...

「ごめん俺すぐ呼び捨てにしてしまう癖なんだ」

 「もう呼び捨てでいいよ」

 「そうか俺も呼び捨てで呼んでくれ」

 そういえば初めて斗真と出会った時もこんな感じだったな。そのとき、斗真の目から涙がでた。

 おそらく斗真も同じことを思ったのだろう。

 「とうま...」

 「あ、ごめん。ちょっと昔を思い出して、うううっ敬...」

泣き崩れてしまった。その時里菜がそばに寄り『とうまぁ』と言いまた泣いてしまった。

 馬鹿やろー。2人とも泣かないでくれ...俺まで...

「斗真、三森さん、もう泣くのはやめよう。敬だって泣く2人を絶対に見たくないはずだよ。きっと笑顔になってほしいと思うよ」

 「そうだよな。ごめん...里菜も、もう泣くのはやめよう」

 「...うん」

 2人は少し笑顔を見せた。そうだよ。その顔が俺が見たい顔だよ。

 「そういえば晴翔は泊まるとこはあるの?」

 「え?あ、うん。近くのビジネスホテルに」

 嘘です全くありません。この後決めます。

 「そうか。晴翔、今日はありがとうな」

 「ありがとうって、俺何もしてないだろ」

 「そんなことないよ。会えてよかったよ。」

 「俺もだよ斗真」

 握手をした。本当は俺が敬だってことを言いたい。でもそんなことを言ってしまえばいくら斗真でも信じる訳がない。

 「明日の告別式も来るだろ?」

 「え?あ、うん」

 いやーさすがに自分が焼かれるのは...

 「そうかじゃあまた明日な」

 そうして俺は斗真と里菜に別れを言って部屋を出た。『ホテルまで送るようお母さんに頼もうか?』と里菜が言ってくれたが断った。だってとってないのだから...

 ロッカーからバッグを取り出し、斎場から出ようとしたとき、さっきの母さんと姉さんがいる部室へと目がいった。

まだ母さん、姉さんは泣いているのだろうか。そういえば太一(弟)が見当たらない。どこにいるんだ?

ごめん。

バカな息子でごめん。

そんなことを思いながら斎場を出た。

とりあえず俺は自分の家に行こうと思った。が、しかし家に戻ってもこの体ではなにもできない。家に入ったところを誰かに見られたりでもしたら泥棒と間違えられるに違いない。

今日はやめておこう。そして俺は夕食を買いに近くのコンビニへ行った。 

弁当と飲み物を取りレジへ向かい表示された金額を取り出そうと財布を出した。『ごめん。晴翔、少し借りるな』と心の中でつぶやきながら。財布を開けた。

「な...」

店員さんが「ん?」と表情を出しながらこちらを見た。おそらくお金がないと思ったのだろう。

逆だ。

な、な、なんだこの札の量は?

財布の中には、なんと20万円近くが入っていた。こいつはバイトでもしていたのか?そんなことを思いつつ、会計を済ませて、1年半前に卒業した中学校の中庭へ来た。

中学は高校より夏休みが始まるのが早いだけあって学校の正門、校庭には生徒、教員はいなかったのであっさりと入れた。

 今日はここで一夜を過ごそう。弁当を食べながら、スマホの電源を入れた。

[メール0件]、[電話0件]、[電話帳0名]

...まじか。

こいつは今日スマホを買ったのか?それとも友達がいないのか?

うん、きっとさっき買ったんだよ。うん...
電話帳に誰もいなければ、ロッカーに入れてもしょうがないか。

ベンチに寝転がり、これは夢なのだろうか。

この体の持ち主は今、どこへいるのだろうか。

死んでしまったのだろうか。

なぜこいつは俺の葬式に来たのだろうか。
そして、俺はこれから『今井晴翔』して生きていくのだろうか。

そんなことを思い、俺は眠りについた。

目が覚めたのは6時前だ。体はもちろん晴翔だ。

やはり夢じゃない

告別式まであと4時間もある。告別式のあとは火葬場へと行く。

何度も言うが自分の体が焼かれるのは痛々しい。火葬場は行くのはやめよう。

俺は友達や家族で行ったところへ行った。商店街、ゲームセンター、古本屋、最後に自分の家へと来た。

死んで今日で4日目。自分の体も今日で最後。そして俺がここへ戻ってくるのも最後だろう。

色んな思い出があった。

これから俺は、『今井晴斗』として生きていけなければいけないのだろうから。

「今までありがとう。そしてみんなさようなら」

そう呟いて俺は、17年間お世話になった家に一礼した。

もう一度斗真達に会って別れよう。

頭を上げ、振り向いた時、時間が止まったように感じた。

「ぁ………」

思うように口が開かない。

目の前には、会いたかった山下彩花が立っていた。
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