Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~
 昼休憩を終え、事務所に戻った私のデスクの上に一枚のプリントが置いてあった。
 そのプリントに一通り目を通して愕然とした。プリントは、さっき永瀬との会話に出た社員旅行の行き先とメンバーの決定表だった。
 うちの会社では毎年休日を利用して近場への日帰りの社員旅行があるのだけど、前年度景気がよかった年には宿泊をともなう旅行へ行ける。もちろんその場合全社員揃っては行けないめ候補地がいくつか分けられそれぞれ希望を出して定員をクリアすれば希望どおりの候補地へ行ける。
 今年は韓国、台湾、ニューヨーク、シンガポールの四カ国。今回定員にみたなかったりあふれたりする国はなく、うまい具合に希望が分かれ全員の希望がとおったらしい。
 だから私は希望通りニューヨークへ行けることになったのだけど……
 男女別に分かれたメンバー表を見ると、ニューヨークメンバーに、女性は私一人しかいない。
 ど、どういうこと!?
 ニューヨークといったらオシャレして、買い物して、美味しいもの食べて……女子が好む魅力がいっぱいの観光地じゃないの!?

「あー、川島さんニューヨークにしたんですかぁ?」

 後輩が背後から私が握りしめるプリントを覗きこんで言った。今時のトレンドを意識した外見の、甘ったるい話し口が特徴の女性だ。

「なんで、ニューヨーク女私一人なのかなぁ……?」
「なんでって……川島さん、行程表見ましたぁ?」
「え?」

 はじめて目にする行程表。メンバーに続いて行程表を見て再び愕然とする。

「ニューヨークってぇ、ほとんどが建築物の見学じゃないですかぁ。しかもかなりの過密、強行スケジュール。一日歩きっぱなし。女の子にはきついですよぉ」
「お、オシャレと買い物と美味しい食べ物……」
「やだぁ、そんなの全部無理に決まってるじゃないですかぁ!」

 嘘! 知らなかった……しまった、ちゃんと行程表を見ればよかった……!

「へ、変更は……」
「川島さん」

 後輩はにっこりと笑って悪びれることなく残酷な事実を告げる。

「希望提出後の変更は認められませんよ」
「…………正解」

 大きなため息とともにがっくりと肩を落とす私の肩を後輩が「川島さんドンマイでーす」と言ってポンポンと叩いた。

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