Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~
 他愛のない会話をしながら自宅へと向かう。自宅の方向は同じ。自宅の位置も500メートルくらいしか離れていない。こうして一緒に帰宅することは今までに数えきれないほどあって、その道中の雰囲気も今まで通り何も変わらない。どこからどう見ても仲のいい同期、友人同士だ。
 この今の現実を見て、私と結婚するという目的を思い改めてはくれないだろうか。密かに居心地がいいと思っているこの関係を、続けていきたいと思っているのは私だけなの?

「なぁ、綾」

 不意に名前を呼ばれてドキンと胸の奥が跳ね上がる。ほら、心臓に悪い。

「おい、返事しろよ」
「やだ。その呼び方、慣れない」
「慣れろよ」
「嫌だ。お願いだから今まで通り川島って呼んでよ、お願い!」

 ほら、結婚を意識する男女のムードのかけらもない私たちの醸し出す空気。無理なんだって。長年友人関係を続けてきた二人が、突然異性を意識する仲になるなんてことは。
 それでも永瀬は折れることなくさらに攻め込んでくる。

「まずは手、繋いでみようか」
「……え」

 言葉の意味を理解して拒否をする間もなく、速攻右手を取られた。右手から感じる熱が伝わって、手を繋いでいるという事実を理解した時、どうしようもない羞恥心に襲われた。

「うわ、想像通りだけどちっさい手してんだな。柔らかくて冷たくて……」

 そして言葉の途中で突然黙る。
 不気味に思って隣にちらりと目を向けると開いた手で口元を抑える永瀬の頬が暗がりでも少し赤くなっているような気がした。
 ……やばい!
 そう思って咄嗟に俯いた。
 だって暗がりでも、相手の表情も顔色もこんだけ近くで肩を並べて歩いていたら伝わってしまうことが分かったから。
 私の顔が今熱いのは、別にどきどきしてるわけじゃなくてただ単に照れくさいだけであって……

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