Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~
「もう帰んの? 明日休みなのに。飲みに行こうぜ」
「行かない。それにこんな時間から店行ったってどこも混……」
「店なら近くにあんじゃん。この前行った新しい……」
「二度とあそこには行けない!」
「カップルシート。結構居心地よかったよなぁ」
「話を聞いて? 行かないって言ってるでしょ!」

 店員を無視して、ハタから見たら痴話げんかに聞こえるような口論を繰り広げたあの居酒屋。記憶では騒がしい店内だったはずなのに、あの瞬間、店中の注目を一身に浴びていた。出禁をくらったも同然だと思って、私は二度とあの店には足を運ばないつもりだ。

「えー、じゃあどうすんだよ。他にこの辺の店は……」
「だから行かないって言ってるの!!」

 聞こえていないフリをして無理にでも連れて行こうとしているのが分かる。このままじゃ埒があかない。
 永瀬と会話をするのを諦めて、無視して自宅に向かおうとした。
 ……が。

「よし、じゃあ俺ん家行こう」
「は!?」

 がっしりと手首を掴まれ足が前に進まない。

「ちょ、ちょ……ちょっと!?」
「心配すんなってー。酒ならある」

 いや、そうじゃなくて。
 ズルズルと引きずられながら抵抗を見せるが、むなしくもあっという間に永瀬の自宅前に着いてしまった。

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