Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~


 会社から徒歩圏内にあるアパートも入居してから早八年目。三階角部屋日当たり良好。長年住んで愛着も沸いている。
 今の部屋に不満な点はなし。深夜近い時間にも関わらず真上の部屋からは大きな笑い声が聞こえてくるけどそれもお互い様。

「ははは! まじで、それ。会社で密会とか。ほんとにあるんだ。へぇ~」
「笑い事じゃないよぉ……片付けほったらかして帰ってきちゃったし。月曜早出しなきゃ……」
「ま、頑張れ」

 こっちは残業上がりで思わぬ現場に遭遇して疲れ切った表情をしているというのに、上司と飲んだ帰りにウチに寄ったこの同期の男は陽気に笑っている。
 同期の永瀬拓真(ながせ たくま)。入社前研修で席が隣だった。入社してからの工場見学もグループが一緒で配属先も同じ。今は異動もあって職場は別だけど住まいはご近所。気付けば互いの自宅を行き来する仲になっていて、異性にも関わらず同期の中で一番気が許せる相手だ。
 永瀬は大きなあくびをしながらゴロンと絨毯の上で横になった。

「私お風呂入りたいんだけど。帰るなら今帰って欲しいな。鍵しめたいし」
「もう帰れって? 来たばっかじゃん」
「私は話したいことは話せたよ。あー、すっきりしたぁ」
「勝手なやつー」
「だってあんな現場に遭遇しちゃって。一人で抱え込むのはつらいもん」

 私は帰る気のなさそうな永瀬を放ってバスルームへ向かった。

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