Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~
*
一日仕事に身が入らないまま定時を迎えた。
悩むなんてどうかしてる。朝の室長からの話が頭から離れない。
元々の私は就職が出来ればどこでもよかったし、適当に三年くらい働いて結婚を機に退社するのだろうなぁという漠然とした思いと考えがあった。
でも今の部署に異動になって、毎日色々なことに携われて新鮮で、仕事に夢中になっていたら気づけば三十路目前。ただの事務職だし、人のサポートがメインだけどやりがいは感じている。ただこの先も昇進はないだろう。でも本社へ行けばキャリアアップのチャンスがあるかもしれないと室長は言った。
キャリアアップって……。私、別にそこまで気合い入れて頑張ろうとは思わないんだけど、悩むと言うことは興味は一応あるというわけか……。
ふぅとゆっくりと息を吐いて席を立つ。
だめだ、自分がどうしたいのかが分からない。すぐには答えが出そうもない。
「お先に失礼します」
今日の仕事はすべて終わった。まだ事務所に残る上司にひと言告げて退社することにした。
外に出た瞬間に全身にまとわりつく湿気と雨の匂い。予報通りだろう、すでに雨は降りだしていた。バッグから折り畳み傘を取り出して広げながらふと思い浮かぶ人物の顔。永瀬の顔だ。
今のように判断に迷ったり、ささいな悩み事だって、あればなんだって永瀬に話していた。小さな悩みだったら聞いてくれるだけで満足できるし、それなりに落ち込んだり大きな悩みだったら彼なりに親身になって接してくれていたと思う。
だから今だって、今日の室長からの話を真っ先に聞いて欲しいと思って思い浮かべるのは永瀬の顔だった。
大阪行きの件は明日までに返事をしなくちゃいけないし、今日少し会えないかな。そう思って折り畳み傘を広げる手を休めて携帯を手に取ったけど電話帳を開くことに躊躇する。
以前のように気軽に呼び出せる間柄ではなくなっていることを痛感する。どんな顔をして会ったらいいのか分からないと言うか……確実に、永瀬と言う人間の存在が、以前までの異性を意識しない友達という存在とは違うものになっている。あんな風に、直接男を意識させられることを色々とされたら誰だってそうなるよね?
でもこれは、恋とは違う。だって私は、今でも戻れるのなら元の仲に戻りたいもの。
「わぁ~すごい雨。降ってきちゃいましたねぇ」
背後から聞こえる女性の声にはっとして携帯をバッグにしまった。こんなところで立ち止まっていても仕方ない。……帰ろう。
一日仕事に身が入らないまま定時を迎えた。
悩むなんてどうかしてる。朝の室長からの話が頭から離れない。
元々の私は就職が出来ればどこでもよかったし、適当に三年くらい働いて結婚を機に退社するのだろうなぁという漠然とした思いと考えがあった。
でも今の部署に異動になって、毎日色々なことに携われて新鮮で、仕事に夢中になっていたら気づけば三十路目前。ただの事務職だし、人のサポートがメインだけどやりがいは感じている。ただこの先も昇進はないだろう。でも本社へ行けばキャリアアップのチャンスがあるかもしれないと室長は言った。
キャリアアップって……。私、別にそこまで気合い入れて頑張ろうとは思わないんだけど、悩むと言うことは興味は一応あるというわけか……。
ふぅとゆっくりと息を吐いて席を立つ。
だめだ、自分がどうしたいのかが分からない。すぐには答えが出そうもない。
「お先に失礼します」
今日の仕事はすべて終わった。まだ事務所に残る上司にひと言告げて退社することにした。
外に出た瞬間に全身にまとわりつく湿気と雨の匂い。予報通りだろう、すでに雨は降りだしていた。バッグから折り畳み傘を取り出して広げながらふと思い浮かぶ人物の顔。永瀬の顔だ。
今のように判断に迷ったり、ささいな悩み事だって、あればなんだって永瀬に話していた。小さな悩みだったら聞いてくれるだけで満足できるし、それなりに落ち込んだり大きな悩みだったら彼なりに親身になって接してくれていたと思う。
だから今だって、今日の室長からの話を真っ先に聞いて欲しいと思って思い浮かべるのは永瀬の顔だった。
大阪行きの件は明日までに返事をしなくちゃいけないし、今日少し会えないかな。そう思って折り畳み傘を広げる手を休めて携帯を手に取ったけど電話帳を開くことに躊躇する。
以前のように気軽に呼び出せる間柄ではなくなっていることを痛感する。どんな顔をして会ったらいいのか分からないと言うか……確実に、永瀬と言う人間の存在が、以前までの異性を意識しない友達という存在とは違うものになっている。あんな風に、直接男を意識させられることを色々とされたら誰だってそうなるよね?
でもこれは、恋とは違う。だって私は、今でも戻れるのなら元の仲に戻りたいもの。
「わぁ~すごい雨。降ってきちゃいましたねぇ」
背後から聞こえる女性の声にはっとして携帯をバッグにしまった。こんなところで立ち止まっていても仕方ない。……帰ろう。