Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~

09 雷雨

 家までの道のりをゆっくりと歩く。自然といつも歩幅が合うのはなぜだろう。
 折り畳み傘は小さくて、限界まで近づいて入っても肩が少し出てしまう。幸い今は小雨。気を遣ってくれているのか、一応、傘を持つ永瀬の手は私寄りに傘を差してくれている。
 一つの傘に一緒に入ることだって今まで何度だってあったのに。今日はなんだか息苦しい。いつも歩く自宅までの距離が長く感じる。

「さっきの子、可愛かったね。今風で」

 沈黙に耐えられず、かと言って何か他に話題もなく。ふと思ったことをそのまま口に出した。

「今風?」
「私の後輩にも似たような子いるんだ。髪くるくるにして毎日可愛い格好してて、~なんですぅ、とか。~ですよぉ。ってしゃべり方するんだけど……」
「そのたびにイラっとしてるとか?」
「いや、イラっとはしないけど……ぞっとする。さすがにもう慣れたけど……ね」
「ははっ」

 永瀬の前ではつい出てしまう本音。でもベラベラ他の人に話されて困ったことはないから、たぶん口は堅いのだと思う。

「俺もあぁいうコ、苦手なんだよな」
「嘘だ、好きでしょ」
「俺が好きなのは短めナチュラルな黒髪で、たれ気味の目が見た目大人しくて癒し系だけどしゃべるとクール……と思いきや実はド天然でオモロイ奴」
「……オイ」

 それは……私を指して言っているね?
 ふざけてる。本気で好きだなんて思っていないんだ。
 永瀬の彼女らしき女性を今までに何度か目にしたことはあったけど、全員さっきの女性みたいにキラキラした女性ばかりだったように思う。だんだんイライラしてきた……

「昔は適当に仕事して結婚だけを夢に見てるそこらへんによくいる女だったけど、部署が変わってから人が変わったように仕事に打ち込むようになって、残業続きの日は帰ってきてヘトヘトになってへばってる姿を見てたら……」

 急に、何を言い出すの……?
 照れくさい。そんな見方をされていたなんて……

「あんな田舎に、連れて帰っていいものかと悩むこともある」

 自然と向かい合って目を合わせる。いつの間にか雨足は強まっていてお互いに髪が濡れていた。

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