Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~
「……ん、夢か……」

 目を覚ますと見慣れない天井。部屋の中はまだ暗くてベッド脇の電子時計の示す時刻は午前3時。
 喉に違和感を覚え洗面所へ行きうがいをする。2日続いている。風邪を引いてしまったらしい。
 夏場と言えど全身雨に打たれて、家に帰ってもしばらく濡れたままで何時間もぼぉっとしていたら風邪を引くのは当たり前か。

「だって、突然あんなことするから……」

 あの日の永瀬との強引で濃厚なキスを思い出して身体が熱くなる。これで本当に熱なんか出してしまったらたまったもんじゃない。記憶を振り払うように頭を降って深呼吸をして冷静になる。今は、余計なことに意識を奪われている場合じゃない。
 私は今、本社近くにあるシティホテルにいる。来週からはマンスリーマンションに移って、今月中には新居の手配をしてもらえることになった。
 突然の転勤と引っ越し……なんだかまだ地に足がついていない感じだ。
 明日から大阪へ行けと言われた日から怒涛の2日間だった。一日目は簡単な仕事内容の説明と、自己紹介をしてまわった。明日、正確には今日からはいきなり本格的な業務が始まる。私が早急に本社に行かされた理由は簡単。私が新しく所属することになった都市開発を専門に扱う部署は深刻な人員不足だった。理由はたぶん……激務による社員の入れ替わりの激しさではないだろうか。今日はじめて見た事務所内の殺伐とした雰囲気からの勝手な憶測だけど。
 でもきっと大丈夫。今の私は昔に比べたら根性もあるし少し残業が続いたくらいじゃ弱音なんか吐かない。
 ーーと、思っていたのだけど……

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