Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~
 業務初日、私は岐阜県にいた。新しく建設する大型施設についての近隣住民への説明会への同行だった。反対をする住民への説明会は終始険悪なムード。息苦しい雰囲気の中で過ごす数時間はとても長く感じた。説明会が終わった時間は午後9時をまわっていて、それから後片付けをし、車で本社に到着した時刻は午前1時。いきなり今までの最長残業時間の記録を更新。

「はっはっはっ……! へばってるねぇ。こんなことはよくあることだから早く慣れるんだよ」

 新しい上司は父親くらいの年齢の明るくて気さくな人だけど気遣い、繊細さに欠ける。前の部署の男の人たちは私をちゃんと女性扱いしてくれて外出すればお手洗いのこととか細かく気にかけてくれたけど……新しい上司はせっかちで、サービスエリアには5分くらいしか滞在してくれないし、飲み物も自分のものしか買ってこない。私は事務所に到着するなりまずトイレに駆け込んだ。そして自販機でお茶を買って乾いた喉を潤す。
 それから細々とした業務をこなして宿泊しているホテルに到着したのは午前2時を少しまわったところだった。
 体力的にも精神的にも限界だった私はベッドに倒れ込む。風邪気味のせいもあって気分も悪い。薬を買ってくる時間と余裕もなかった。
 お風呂に入る体力もない。このまま寝てしまおうと目を閉じる。
 でも疲れ切って体力は残っていないのにうまく眠気がやってきてくれない。目を開けていると不安に押しつぶされそうになってきた。
 明日からもやっていけるだろうか。昨日までの自信はどこかへいってしまった。
 仰向けになって天井を見上げると目頭が熱くなって目の淵に涙が溜まってきた。

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