Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~
「じゃ、じゃあさ、私が杉浦さんと別れた時に30になったら結婚しようって言ったのは? あの時は……?」
「あの時は……悪かったよ。本気じゃなかった」
「そうだとは思ってたけど……」
「あの時おまえが30までに結婚がどうとか血相変えて言ってて、その時ふと自分の事情を思い出したらさ、俺もボヤボヤしてらんないなって思ったんだ。だから自分を追い込む意味も込めて30までに独身だったらおまえと結婚しなければいけないというペナルティを……」
「ペナルティって! 酷っ!」

 永瀬は「だから悪かった。ごめん」と素直に謝ると箸を置いた。

「それから俺なりの婚活ってやつをはじめたけど……好みの女はいても毎日一緒にいたいと思える奴はいなくてさ。割とすぐに毎日一緒にいるなら、やっぱ一緒にいて楽しくて、楽で、わがまま言えて。一緒にいて居心地がいい奴じゃないとって気づいた時に真っ先に思い浮かべたのはおまえだったんだ」
「割とすぐにって、そんな素振り全然……」
「俺の態度が豹変してからおまえかなり戸惑っただろ? その気持ち、分からなくもないんだ。俺だって少しくらい戸惑いはあった。今のこの関係は気にいってるし変なことして壊すのは嫌だなって。だからおまえに結婚を迫りながらもあんまり本気すぎて引かれるのもアレだし、照れくさいのもあって……ふざけて見せたりしてただろ? 戸惑いは結構最近まで……」
「……うん」

 同じだ。
 私も永瀬の態度が豹変して、割とすぐに意識し出してたけど、この関係をなくしたくないという思いが邪魔して、なかなか自分の気持ちを認めようとしなかった。
 告白したのは今朝だけど、本当は、もっと前からとっくに永瀬にはドキドキさせられてた。

「でも30になったらって結婚しようっていう口約束も一応あるわけだし、その通り今年30になるこの年に、一気に勝負をかけることは決めてたんだ」
「落ちる保証はどこにもないじゃない」
「そうか? 最初に迫った時にイケるって思ったけど。顔、真っ赤にしてたし」
「あ、あの時は状況が……隣から変な声がきこえてくるし」
「ははっ。あれはキツイ。引っ越しできてよかったんじゃない?」
「まぁ、ね……」
「ナオキ元気かな?」
「……ぷっ。ちなみに。彼女の名前はアヤカだよ」
「へー。って、どうでもええわ」
「そっちから言ってきたんでしょ!?」

 話が一区切りついたところでラーメンに手をつける。すべて食べ終え箸を置いてからふとした疑問を投げかけた。

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