Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~
「仲居は違うよ。仲居を束ねる立場になるんだよ。女将さんってやつ」
「……は?」
「実質経営者、もしくは経営者の嫁のこと」
「それって……」
「経営者の息子が嫁をもらって業務に携わるとその嫁は若女将になる」
「……」
「大変かもだけど、おまえは意外と根性あるから大丈夫だ」
「……な、」

 な……っ! なんですと!?

「……んっっ」

 敷布の上に倒され唇を塞がれる。ち、ちょっと待ってよ。まだ……!
 なんとかしてキスから逃れると永瀬の身体の下からも抜け出そうと身体を捩るけど、敷布にうつぶせで押さえつけられるようにすぐに捕まる。抵抗を見せてもがっちりと身体に回った手をほどくことが出来ない。

「む、無理だよ私……! 私には、荷が重い……!」
「今更逃げられるとでも思ってんの?」
「だ、だって……!」

 ド素人の私が、いきなりさっきの手際のいい仲居さんみたいな人達の上に立つって?
 無理でしょ!
 ドラマで見たことがあるような……きっと、姑には虐められ、仲居さんにはいびられ……地獄の女職場!?
 青ざめる私を無視して永瀬は私を仰向けにし帯を緩めて胸元を開いた。そして浴衣の中に入れた手で太ももを撫でながら耳に唇を寄せた。

「悪いけど手放す気ないんで」
「……んんっ」

 重なる唇、絡まる舌。全身が痺れて一気に高まる熱。頭がぼぅっとして何も考えられなくなる。
 キスを繰り返しながら痛いほど抱きしめられて、私はそれに応えるように背中に腕を回した。
 なんだか……解決していない大問題がまだ心の片隅でくすぶっているけど、今はこのこれから襲われる快楽の波にのまれたい。

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