Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~

16 揺らぐ決意と息子の登場

 翌朝、先に目を覚ました私は早朝から部屋に設置された露天風呂に入っていた。青々とした緑と清々しい空気に包まれながらの一人風呂。なんて贅沢なのだろう。
 昨夜は結局、話の途中で理性を失ってしまった。

「どうなっちゃうんだろ、私」

 自分の行く末が不透明。永瀬の中でははっきりと私の行く末は決定しているみたいだけど……私からしてみれば正直現実味を帯びていないことばかりで足元がフワフワしている感じだ。いきなり若女将になれとか言われても……うん、やっぱりピンとこない。想像もなつかないような世界へ自分の人生を捧げる覚悟は正直すぐには持てないよ。
 一人露天風呂を十分に堪能して部屋に戻ると、まったく起きる気配のない永瀬がスヤスヤと安らかな寝息を立てている。もうすぐ朝食の配膳の時間じゃ……?

「ねぇ、そろそろ起きて」

 声をかけて身体をゆすっても「あと5分~」とかすれ声の寝ぼけた返事が返ってくるだけで起きる気配はない。こりゃしばらく起きないぞ。
 寝返りをうってうつぶせになって顔を横に向けて眠り続ける永瀬の隣で、同じように横になってみた。じっと寝顔を見つめているだけで込み上げてくる思い。
 ……やっぱり、好きだなぁ。離れたくない、ずっと一緒にいたい。
 今はただ、気持ちが浮かれているだけなのかな。少し離れれば冷静に物事を考えられるようになるのかな。
 そう思っていたんだけど……

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