Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~
 あっという間に連休は終わって別れの日がやってきた。出社前日、夜の最終の新幹線の時間ギリギリまで一緒にいた。
 帰りは駅のホームまで見送りにきてくれた。列車が到着するまでの間、ベンチに座って新しい職場での不満や不安をずっと聞いていてくれた。

「どこに行ったって慣れるまでは大変だよ。最初は辛抱だな」
「……まぁ、そうだね。頑張る」
「それに、どうせ働いても長くてもあと半年だろ?」
「あ、あの……それ」
「あ、列車来たみたいだぞ」

 バッグを持って立ち上がる。ほとんど手ぶらで来たから荷物は少ない。こっちに来て着た洋服や下着などの洗濯物が増えたくらいだ。

「じゃあね、また」

 一生の別れじゃない。しんみりするのは馬鹿らしいと思って笑顔で手を上げる。背を向けるとすぐに「綾」と呼び止められる。ドキッとして、振り返ると手を引かれた。そして自販機の陰に隠れて触れるだけの短いキス。   嘘……永瀬が人が多く行き交う場所でこんなことするなんて。だって外でいちゃつくカップルを冷めた目で見て馬鹿にするタイプだよ?

「がんばれよ」

 一瞬で離れた唇から紡がれる言葉。驚きに固まる私の身体の向きを変え背中を押して列車に押し込まれる。
 おぼつかない足取りで入り口すぐの自分の指定席に座ると無意識に手で両頬を挟む。とても、熱かった。

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