Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~
 今までこんなにも近くで目を合わせることなんかなかった。
 二重まぶたなんだってことすら意識したことがなかったきりっとした瞳は思った以上に睫毛が長くて、健康的な肌も妬けちゃうくらいに滑らか。唇からのぞく歯は綺麗な歯並びで、喋る時に喉仏が動く様子にどきっとした。
 不覚にも、一瞬吸い込まれるように見惚れてしまった。

「とにかく、俺は決めた」

 永瀬は屈んで視線の位置を私に合わせて言った。

「今年中におまえを俺の嫁にする!」
「だからどうしてそうなるの!?」

 しかも今年中という謎の期限つき!
 私の張り上げた声と同時に携帯の音が鳴り響く。永瀬のシャツの胸ポケットに入った携帯からだ。ストラップがついてるところを見ると会社用の携帯だろう。

「おっと、いけね。会議だったんだ」

 「じゃ、俺行くわ」と何事もなかったかのように立ち去ろうとする永瀬の態度が気に入らなくて「ちょっと待ってよ!」と制止する。
 何が何だかわかんないの! 何か一つでもいいから説明してってよ!

「話の続きは今夜、おまえの家でしよう」
「わ、分かった」

 パタンと音を立てて扉が閉まるのを見てはっとする。

「えっ、ウチで!?」

 また家で二人きりってこと!?
 夜、二人きり、そして隣の部屋からはピンクなムードのBGM……。
 最悪な条件が三拍子揃った! 嫌だ! やめて、こないで!
 そう告げようと慌てて扉を開けたけど、すでに永瀬の姿はなかった。へたりとその場に膝から力なく落ちる。
 頭の中はパニック状態。
 ただ一つたしかなことは。たぶん、もう二度と元の仲のいい同期には戻れないということ。

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