Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~
 忙しいことには変わりないけど、仕事が分かってきて自分で仕事の調整が出来るようになって用事がある日は早く帰ろうと思えば帰ることが出来るようになってきた。
 秀則さんとの約束日、朝から今日中に済ませなければいけない仕事をピックアップして優先して終わらせていった。そして定時を少し回ったころ、この日のすべての業務を終えて休み明けに回した仕事を上司に報告する。

「うん、ご苦労様。早く帰れる日は早く帰っちゃいな! これから年末にかけてじわじわと忙しくなって年度末にはみんな顔に死相が現れるから。はははっ!」
「……ははっ」

 相変わらず、笑えない話を明るく笑い飛ばす上司。だいぶ慣れてはきたけど。

「じゃあ、お先に失礼します」
「おつかれさーん!」

 会社を出て一個目の横断歩道で赤信号で足を止めた。その隙に携帯を見ると未読メッセージありの表示。
 最新メールをチェックしても常にこの表示が出ている。メールを見る前に新たに秀則さんからメールが送られてくることもあって古い未読メッセージが残ったままになっているのだ。整理してもすぐに同じ状態になってしまうので最近では放置気味。
  最新のメールの内容は「19時頃迎えに行きます」といったもの。19時なら家に帰って少しゆっくりする時間があるかな。
 今更だけどふと思う。これって、デートだよね……?
 相手が自分のことをどう思っているとかそんなこと以前に、恋人がいる身で他の男性と二人で会うのは非常識だった。……恋人がいる生活、とか。久々過ぎて抜けていた。それもこれも、離れているのに連絡の一つもよこしてこない永瀬のせいだ、そういうことにしておこう。
 なにはともあれ、今日を最後に、次からは恋人がいることを理由に断ることにしよう。

「おつかれさまでしたー」
「うん、気を付けて」

 立ち止まる私を追い越した男性二人が目の前で別れた。その片方の男性の姿を目の当たりにして自然と声が出てしまった。

「杉浦さん」

 杉浦さんだった。先日公園でばったり鉢合わせて以来。杉浦さんは目を合わせると優しく微笑んで「今帰り?」と言った。

「はい」

 自然と足が向く方向は同じ。自宅の方角が同じようだ。

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