Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~
「この辺りに住んでるの?」
「はい。すぐ近くなんです」
「えっ、いいなぁ」
「急な転勤だったのに運よく近くの社宅が一室空いて……杉浦さんは?」
「電車通勤だよ。うらやましいな。寝坊しても間に合うんじゃない?」
「そうですね」
「そんなに近いの?」
「はい、あそこです」

 短い会話の最中に今私が生活をしている5階建てのマンションが見えて指を差す。部屋数も少なく古くて小さなマンションだけどエレベーターもついていて3階に住む私はときどき利用している。
 会話をしながら歩いているうちにあっという間に自宅マンション前に到着。

「ではここで。失礼します」
「あれ……永瀬君?」
「はい?」

 ありえない人物の名前が出て杉浦さんを見上げる。彼の視線は別のところに向けられていて、その方向に向かって振り返ると……

「な……なっ、永瀬!? どうしてここに!?」

 突然現れた永瀬の姿に思わず大きな声を出して駆け寄る。

「どうしてって……今日、本社(こっち)に用事があってくるから寄るってメールしたじゃん」
「……え」

 メール……?
 しまった、秀則さんからのメールに埋もれて見逃していた!?

「永瀬君! 久しぶりー!」

 同じように永瀬の元に駆け寄ってくる杉浦さんは笑顔で久々の再会を喜んでいる。永瀬も笑顔で「お久しぶりです」って言っているけど……何か、ピリピリとした雰囲気が漂ってくる。
 そういえば永瀬は、こっちは杉浦さんに対して未練も何もないのに、何かと彼の名前を出してつっかかってきていたような……
 今の自分の状況を確認する。
 今私は自宅前を杉浦さんと一緒に歩いていた。こ、これは、まずい……?

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