Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~
「川島さーん!」

 背後からさらに追い打ちをかける一声が。秀則さんの登場だ。

「ごめんなさい、約束の時間よりだいぶ早いけど……。待ちきれなくて。よかったです、ちょうど会えて」
「あ、あ、あの……」

 恐る恐る永瀬を見上げる。何食わぬ顔をしているけど、ばっちりあった目は瞳の奥底がギラギラとして怒りを秘めているような気が……

「こ、これには、理由(ワケ)が……」
「どんなワケ?」

 穏やかな口調とは反対に力強く手首を引かれると、そのまま強引にエレベーターに押し込まれた。エレベーターの扉が閉まる音がして振り返ると無言の永瀬の背中が目の前に。

「何階?」
「さ、三階、です……」

 低く素っ気ない声に怒りが込められているのが伝わってきて思わず敬語に。

「ね、ねぇ……」

 エレベーターが三階につき無言でまた腕を引かれる。力強く握られて痛かった。怒っているのが十分に伝わってくる。
 元彼と歩いて、見知らぬ男性と会う約束をして。勘違いをされてもおかしくないような現場を見られてしまった。怒るのも無理はない。で、でも、やましいことはなにもないもの。ちゃんと話せば分かってくれるはず……。だいたい、私の話もちゃんと聞かないでいきなり怒りをぶつけられても……
 部屋の前に着いて鍵を開けて中へと入る。そして息苦しいこの空気を払しょくしたくて早速本題に入った。

「杉浦さんとは」

 ついさっき、ばったり居合わせて少し会話をしただけだ。そうすべて告げる前に手首を引かれベッドに放り投げられるように倒れる。すぐに身体を起こして永瀬を見上げると、じっと私を見下ろしながらネクタイを緩めると一気にはずした。

「言い訳はあとだよ」
「べ、別に言い訳じゃ……!」

 距離を縮めてくる今までにない重苦しい雰囲気の永瀬に恐怖を感じてベッドの上で後ずさるけどすぐに壁にぶつかって行き場を失う。
 そして私の両手を拘束して壁に押し付け近距離でじっと私を見据えて言った。

「まずはお仕置き」
「はぁ!? な、何バカなこと言って……んんっ!」

 強引なキスに唇を塞がれて言葉は途切れる。
 かなわないって分かってるけど抵抗をして、抵抗をすればするほど私を抑え込もうとする力は強まってなす術を失くしていく。
 そして後ろで腰中央で組んだ両手をネクタイで縛られてしまった。

「さぁ、どうして欲しい」

 冷たく響く声と瞳。じっと静かに見下ろされて身体が小さく震えた。

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